【統合失調症とナイアシン(ビタミンB3)】
精神病超ハイリスク群における状態指標
⇒ナイアシン皮膚感受性
〈背景〉
精神病の予防及び早期介入の研究では,リスク群を定義する生物学的指標が注目されている。
★『ナイアシン(ビタミンB3)刺激に対する皮膚紅潮反応の減弱』は,「未治療統合失調症」で最もよく再現されている所見の一つ。
これは,アラキドン酸代謝,炎症性活性化,血管運動機能と関連する『プロスタグランジン介在経路の障害』を反映している。
一方,『超ハイリスク(UHR)群ではナイアシン感受性の亢進』が近年報告されており,精神病前駆期の動的な変化が示唆されている。
しかし,多様な超ハイリスク群が層別化されていないため,その特徴は明らかになっていない。
本研究では,『ナイアシン皮膚テスト』を用いて,超ハイリスクの亜型ごとのナイアシン反応性の相違を,精神症状や精神病移行予測の妥当性との関連と共に探索した。
〈方法〉
ドイツのイエナ(Jena)大学病院で,初回精神病エピソード(FEP)群105名,UHR群84名,健常群180名を対象に,3種類の濃度(0.1M,0.01M,0.001M)の水成ニコチン酸メチルパッチを前腕内側に貼付し,皮膚紅潮反応(光反射分光法)を用いて感受性を検証した。
FEP群では66名が第二世代抗精神病薬での治療を受けており,UHR群では抗精神病薬は投与されていなかった。
UHR群は三つの亜型,すなわち短期間の間欠的な精神病症状(BLIPS)がある群(UHR-B)12名,微弱な陽性症状がある群(UHR-A)45名,精神病家族歴や統合失調型パーソナリティ障害があり,機能の全体的評定(Global Assessment of Functioning Scale:GAF)で30%の低下がある遺伝的リスク群(UHR-G)27名に分類した。UHRの三つの亜型と精神病への移行/非移行の定義は,発症リスクのある精神状態の包括的評価(Comprehensive Assessment of At Risk Mental States:CAARMS)のPACE(Personal Assessment and Crisis Evaluation)基準に従った。
精神症状は陽性症状評価尺度(SAPS),陰性症状評価尺度(SANS),簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS),精神症状評価尺度(SCL-90-R)で評価した。
〈結果〉
ナイアシン感受性の群間差は0.001Mの条件でのみ認められた(F =5.43,p=0.005)。
FEP群では,UHR群全体や健常群よりも有意にナイアシン感受性が低下していた。
UHR群全体では健常群と有意な差は見られなかったが,UHR-B群とUHR-A群ではFEP群と同様にナイアシン感受性の低下が見られ,UHR-G群では健常群との違いは見られなかった。
ナイアシン感受性は,FEP群ではSAPSの幻覚のスコアと逆相関があり(r =−0.30,p=0.046),UHR-B群ではSAPSの思考形式障害のスコアと逆相関した(r =−0.85,p=0.034)。
UHR群全体で精神病への移行率は最初の1年間で16.5%であり,UHR-B群あるいはUHR-A群からの移行であった。
精神病移行群では健常群よりも有意にナイアシン感受性が低下していたが,非移行群では健常群と差がなかった。
〈結論〉
ナイアシン感受性が『精神病前駆期の状態指標』となり得ることが示唆された。
今後,リスク変化を評価する簡便なベッドサイドマーカーとして,また『抗炎症薬』など新規治療による予防戦略が有効である超ハイリスク群を同定する指標として,更なる探索が望まれる。
(谷 英明)
LANGBEIN, K., SCHMIDT, U., SCHACK, S., et al. State Marker Properties of Niacin Skin Sensitivity in Ultra-High Risk Groups for Psychosis – An Optical Reflection Spectroscopy Study. SCHIZOPHR RES, 192, 377-384, 2018
< PSYCHOABSTRACT 2018 No.3 P.7>